CHAPTER 4

 気がつけば体がふわりと宙に浮いており、温室の一角を占める泉に運ばれていた。淵に下ろされ、からみついた蔓たちがリオの服をはぎとってゆく。羞恥をおぼえる間もなくすっかりはだかにされ、泉のなかにいざなわれた。
「ずいぶん汗をかいているな」
 リオは顔を赤らめた。寝汗をかいたうえに屋敷の廊下を走り回ったので、彼の肌はべとついていた。
「きれいにしてくるから、あっちで待ってて」
「なに。素直に言えたご褒美だ。すべて私に任せなさい」
「わっ」
 しぶきを上げて、白磁の肉体が浅い水のなかに沈んだ。リオは一度頭まで水に浸かったが、すぐに底の玉砂利に足をつけ、立ち上がる。
 彼の華奢な体を覆う膚は、月光に照らされてあおじろく発光していた。無数の光の珠を全身にからめ、濡れてさらに黒さを増した髪を、艶めく肌に張りつかせている。
「……きみは美しい」
 ご主人さまはふたたび蔓をその身に巻きつける。なおも抵抗するリオの動きをやすやすと封じ、幾本もの蔓で彼の沐浴を促す。一本は足を、一本は上体を、一本は髪を――。かたくこわばっていた体は、そのくぼみまで入念にさぐられつづけることで清められ、そしてほころんでいった。
 汗がすっかり流れるころには、リオの体は桜色に色づいている。息を荒げる彼を、蔓が持ち上げた。
 運ばれたのは、さきほどまでリオが立っていた、根で囲まれた草原である。ゆっくりとやわらかな草の上に横たえられ、彼は潤んだ目でみずからに陰を投げかける葉むらを見上げた。
「ご主人、さま……」
 不安げな囁き。応えるように、ぐっと枝葉が降りてきてリオの全身を撫ぜた。やわらかな花弁の、それよりはいくぶん堅くつるりとした葉のざわめきを肌に受け、彼は身じろぐ。
「んっ……」
「なにも心配することはない。よくしてやるからね」
 足のつけ根や脇腹、敏感なところにふれるとくすぐったかった。しばらく、色づく空気に慣れさせるように、花や葉はリオの体の上で揺れていた。そのうちにリオのまだ硬さの残る体の奥に、なにかじれったいようなむずがゆさが沸き起こってくる。
 唐突に彼はさとった。これは愛撫なのだ、と。ここは真夜中の褥で、すぐそばにはご主人さまがいる。夢にまでみた夜伽の場。リオだけが愛情を独占できる場だ。歓喜に打ち震え、全身のむずがゆさが熱へと変じてゆく。
 彼のうちなる変化を受けてか、葉むらは体を離れていった。そうして清らかな月光のもとに、少年の開きはじめた肉体のすべてがさらけ出される。月はいっそうまばゆさを増し、比例してリオの体もあかるく照らされた。成熟しきらない肢体の、張りつめた弓弦のようなこわばり。少女のそれのように色づいた胸の尖り、股間のごく淡い翳りから幼い色をした切れ込みまで、ご主人さまの視覚器官はすべてを捉えた。
 リオは恥じて、せめて膝をすり合わせようとした。しかし、それより早く、ご主人さまの蔓が全身に巻きついた。ひざ裏をくすぐりながら関節を捕らえられ、足を開かされる。
「きみはまだ、なにも知らないんだな」
 肉の薄い足のあいだには、少年の証が実っている。その先端は表皮のうちに秘されていた。このありようは、リオの体がいまだ無垢であることの表れである。〈アドニス〉はみなこのような象(かたち)をもって生まれてきて、然るべき者のもとで仕込みを受けるさいに処理される。しかし買い手がのぞむのならば、舖はなにも知らぬまっさらな少年を売るにやぶさかではない、主人みずから処理することもあった。
 リオは後者の道を歩む、はずだった。それより早く舖に戻されてしまったので、彼の体も心も実は、夜の寝所でなにが行われているかを知らない。それが愛を注がれるべき〈アドニス〉として未熟なことだと思え、リオは身を縮める。
 けれども、ご主人さまはあくまで優しかった。あまたある蔓のなかでもひときわやわらかな一本を伸ばし、ゆっくりと性器にふれてくる。
「やっ……」
「恥ずかしがることはなにもないよ。きれいな性器だ。袋も締まって、形が揃っている」
 やわらかで芯のある蔓が、幼い性器を検分する。根元の双果までするりと撫でられ、リオは素直な反応を返した。なにも知らないまっさらな体だが、そこに触れられれば陶然となった。あたたかい湯でみたされるような感覚に、リオは白い瞼を閉じる。
 けれど一瞬の後、そこを激痛が襲った。
「あっ……痛っ、やっ! ご、ご主人さまっ!?」
 身を起こしておのれの身になにが起こっているかを見ようとしたが、あまりの痛みにリオはのけぞって頬を草原にこすりつける。くたりと萎えた性器に、何本もの蔓が絡んでいた。そしてそのうちの数本が、先端の表皮を除こうと動いているのだ。
 敏感な場所を襲う鮮烈な痛みに、リオは黒髪を乱してのたうつ。そのたびに別の場所から太い蔓がのび、彼をなだめた。
「んっ……んっ……」
 リオは鼻を鳴らし、引いたはずの涙をしたたらせて耐えた。
 どれほどのあいだそうしていただろう。
「そら。これできみは私のものだ」
 言いながら、蔓に上体を起こされる。リオは足の間を見下ろし、喉を鳴らした。そこは見たこともないような状態になっている。真っ赤に充血した先端が頭をもたげ、全体がゆがみなくそそり立っていた。
「なに……? かたくなって、る」
「ここは快楽を得ると芯が通う。熱くなって、子種が出てくる」
 引き続きそこにふれながら、ご主人様が言う。ほとんど耳に入らなかった。甘い丸みを持った果実はじんと痺れ、痛むのに、蔓でなぜられるうちに淡い快美がこみ上げてくるのだ。戸惑う少年をよそに、体は昂ぶりはじめる。露出させられたばかりの先端に触れられ、どっとそこが濡れた。
「あっ、はあ、んっ、なにっ」
「きみたちの場合は子種ではなく、甘い蜜が出る」
 魚のように跳ねる体を受け止め、ご主人さまは性器に蔓をからめてゆく。濡れた音が耳につく。むっと甘い匂いがたちのぼり、ご主人さまの蔓もまた、うちから染み出す粘液でしとどに濡れそぼっていることを知る。先端から溢れる透明な蜜と混ざり、すべりがよくなった。
 性の戸口を開きかけたばかりの体は、間もなく法悦のときを迎える。
「ああっ……!」
 みずからのなかに快楽の道ができるのを、リオは如実に感じとった。華奢な体がびくびくと震え、白く濃い蜜が鈴口から飛び出してくる。初めての蜜を、蔓はあますところなく舐めとる。ていねいに造られた〈アドニス〉らしく、それは極上の甘露だった。
 ご主人さまにしなだれかかり、リオは身に起こった変化に息を荒らげている。いつしか彼の肌はふたたび汗に濡れ、紫紺の黒髪が首筋にはりついている。一糸まとわぬ体を上気させている姿は、淫らな花のごとく。リオはいまや、白いシャツを喉元まできっちりと締めた、貞淑そうな少年ではない。
「……疲れただろう。今日はもう眠るといい」
 想像以上のいやらしさにご主人さまは内心歓んだが、おのれを律し、気遣うように声をかける。この先に進んでもいいが、急だとも思えた。ただでさえ辛い過去を経てきているのだから、無理はさせたくなかった。
 しかし一方でリオは、身のうちにとどまり続ける熱に翻弄されていた。
「……って……」
「どうした?」
 体を洗うために泉へ誘おうとする蔓を引き止め、リオはぽってりと色づいた口唇から息を漏らす。ご主人さまは白い花を差しかけ、彼に問うた。顔に肉迫した花々から、濃く蜜がにおう。それを嗅いでしまえば、もうだめだった。
 未知なる快楽の手が、リオの核をぎゅうと握り締めている。そこからたちのぼる悦楽の炎は、まだ未熟な体を翻弄した。後ろ孔の奥に、灼熱のかたまりがある。それは甘い匂いに誘われて、ぐっと下に降りてきた。隘路を濡らし、かき分け、それは狭い孔から溢れる。
「んん――っ!」
 どぱ、っとみだらな水音をたて、リオの可憐な双丘のあいだから大量の蜜が流れ出た。草原を濡らし、だんだんと広がってゆく。一部は飛び散って太ももを濡らし、筋を引いた。たちまちぐっしょりと濡れた尻の感触に、リオは青くなる。失禁したと思ったのだ。
「ご、ごめんな、さ……」
「大丈夫。きみの体が健康な証拠だよ。〈アドニス〉は濡れるように作られている」
 冷静になだめながら、ご主人さまはじっとリオを見ていた。粗相を恥じ、涙目で股間を隠す美しい少年はあまりにいじらしい。解放してやろうと思っていたところだったが、気づけば全身に蔓をからめている。脇のくぼみにおのれの粘液を塗りつけ、そのまま両胸の果実をいじった。初めてだろうにそこは敏感で、すぐに熟れてふくれてくる。
 股間を隠すリオの手を強引にどけ、濡れた蔓の先で濡れそぼった孔の周囲に触れた。
「こんなに濡らして。なにか言いたいことがあるだろう、もう一度言ってごらん」
「やっ……言えなっ……」
「リオ」
 叱りつけ、ご主人さまは耳裏を、両胸を、後ろ花を愛でる手を完全に止めてしまう。火を灯された体はすぐに焦れた。次なる快美を求めて波打つ体を、ご主人さまは思うさま眺めていた。
 菫青(アイオライト)の目が、情欲にひたりきってゆく。わななく桃色の唇が、ついに告げた。
「も、もっと……もっと教えて、気持ちいい、ことっ……」
「かわいいリオ。素直にねだれたのだから、ここも愛してあげようね」
 その言葉を待ち受けていたように、細い蔓を隘路にすべり込ませる。
「はあんっ、うん、ああっ」
 身を貫かれ、甘い夜の空気の中で、白い肢体が跳ねた。ご主人さまは慎重にリオの身のうちに侵入したが、愛されるために作り出された体は悦楽に従順で、すぐにいやらしく開いていった。いたわるような蔓の動きが物足りず、けれど浅ましくねだることもできず、リオは熱が高まり、自分を焼き尽くしてくれることを望んでいた。
 あるとき、蔓は口のなかを犯し始める。
「んっ……甘い……」
 そこからしたたる粘液はひどく甘い蜜だった。そしてその味を、リオは知っている。この屋敷で摂った食事はご主人さまの蜜だったのだ。
 夜が明けるまで、ご主人さまは無垢な体に性愛を教え込み、リオはそれに従った。口に、後ろ孔に蜜を注がれるたび、身も心も満たされてゆくのを、感じていた。
 一夜にして、少年は愛されるための存在へと作り変わる。
 あまりに幸せな初夜だった。

   
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